ヴィーナスとマイケルとクラゲ

お台場には以前にも行ったこはがあったが、「お台場!」という意識でお台場に行ったのはこの前はじめて。正確に言うと、目的地は「お台場!」よりも「海!」だった。お台場は人工島としてほとんどコンクリートに埋められているけど、島には島として近くに海があるはずだ。「海!」。なぜなら、海に行くと耳に聞こえるのはほとんど海の音のみだから。水と空の音。

物と人に溢れすぎるこの都市が一番欠けているのは、心が落ち着く静かな場所ではないだろうか。最近の選挙戦で特にうるさかった一方、道路を歩くだけで絶え間なく商品を宣伝する大声や音楽、サイレンの唸り、機会たちが吐き出す命令に耳が聴覚障害に晒される。森や公園に行っても必ずロック・コンサートや右翼の騒音がする。脳を麻痺するものなら何でもよい。自分の場合、家に帰っても電話中毒のハウスメートが耳障りの悪い声で夜までしゃべっていることでなかなか静かなところが見つけない。

お台場でそういう場所を探し求めても無茶であることは、東京を知らない私は予想していなかった。降りた駅には子供カー・レーシング・イベントが開催され、周辺にはゲームセンの他に「ヴィーナス・フォート」というデパートがあって充分うるさかった。私は仕方なくヴィーナス・フォートに入った。

薄暗い照明で照らされた中のショッピング・モールはイタリアの街をイメージしていたが、センスを組み込む予算はおそらく無かった。店は全て二階建ての伝統建築を真似した建物にあり、それがまたヨーロッパの古い町を思い出させようとする石畳の道路に左右に分けられた。天井には青空模様が描かれて、なぜかその天からマイケル・ジャクソンの曲が淡く響いた。国会議事堂じゃないのにこれほどフェイクな光景に目が痛んだまま「道路」を進むと幾つかの「広場」を通る。

最後は「教会広場」に到着。もちろん、教会というものは宗教と関係なく、「塔」に設置された液晶スクリーンに現れてきたのは、聖人でもイエスでもな く、マイケル・ジャクソンの顔だった。

ヴィーナス・フォートから脱出してお台場の汚い浜辺をずっと歩んで行くと、やっと静かな所を発見する(浜辺の近くに和太鼓演奏の音がしたからそこもバツ)。小さな島である台場公園。ここは何もなく、草と木が生えているだけ。島の形は真四角で、元々は黒船を大砲で迎えるように軍事目的で作られたらしい。そのため島の内部には奇跡も若干残ってあり、変わった場所だった。

実際、ここにも周りの高速道路やデパートからも音がしたが、草に座って東京湾を往復するボートを眺めるだけで心が落ち着いた。

この日は雨が降り出すまでに公園の草で寝そべっていた。浜辺で遊んでいた人も姿を消し、砂に残ったのは穏やかな波で流されて来る死んだクラゲだけだった。

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